いきなりですが、問題です。
Aさんは、Aさんが経営する会社名義で、東京の不動産業者から表面利回り10%、3億円の収益物件を買いました。
3か月後、Aさんはせっかく買った収益物件ではありますが、 事業で資金が必要になったため 、大阪の不動産業者に買った金額と同じ3億円で売却しました。
Aさんは事業資金を回収出来ただけでなく、なんと、3千万円の譲渡益がありました。
Aさんは大喜びでしたが、一体なぜ同じ金額で売却したのに、譲渡益が出たのでしょうか?
コラムのタイトルがヒントになっていますが、前提条件が少ないと考えようがありませんので、追加のヒントです。
ヒント1
問題の収益物件には、返還保証金が3千万円ありました。
ヒント2
返還保証金の処理は、買った時が東京方式、売った時が大阪方式で決済しました。
返還保証金とは、賃貸借契約時に預かる一時金のうち、契約終了時に貸し主が借り主に返すべきお金のことです。一時金の名称に決まりはなく、保証金や敷金と呼ばれ、敷き引きや家賃の未払い、原状回復のための費用などを差し引いた残りが、返還保証金となります。
ヒント2で出てきた東京方式と大阪方式の違いですが、よく言われている説明では、返還保証金を持ち回り、売買金額はそのままなのが大阪方式で、東京方式は売買金額から差し引く、といいます。
収益物件の所有者が変われば、新しい所有者が借り主に返還保証金を返さなければなりません。この仕組みは東京も大阪もおなじです。
そして帳簿上も、前所有者から新所有者へ保証金の返還債務が引き継がれます。これも全国共通です。
東京方式と大阪方式は、決済方法の違いだと理解されていることが多いと思いますが、そうではありません。
では、東京方式と大阪方式は何が違うのでしょうか?
実は、売買金額の表示が違います。
大阪方式は、売買金額が間違っているのです。
大阪方式では、売買金額ではなく、現金の受け渡し額を表示しています。
東京方式は売買代金から返還保証金を差し引きますので、現金の受け渡し額+返還保証金が東京方式の売買金額になります。
つまり、東京方式が本当の売買金額なのです。
どういうことか、問題の例を使って説明しましょう。
Aさんが購入したのは、表面利回り10%、3億円の収益物件でしたね。
ヒント1で3千万円の返還保証金があることがわかりました。また、ヒント2によると、買った時は東京方式で決済しています。東京方式では、売買金額から返還保証金を差し引きますので、Aさんが支払った金額は3億円-3千万円で、2億7千万円です。
次にAさんが収益物件を売った時、買った時と同じ3億円で売却していますが、ヒント2によると大阪方式で決済しています。
大阪方式は現金の受け渡し額でしたね。
Aさんは3億円を受け取り、保証金の返還債務を買い主に引き継ぎます。
物件の代金と別に、Aさんから買い主に3千万円の返還保証金分の現金を渡すことはありません。
東京方式では現金の受け渡し額+返還保証金が売買金額になりますので、3億円+3千万円で、3億3千万円です。
つまり、大阪方式で売却したAさんの本当の売買金額は、3億3千万円だったのです。
収益物件の取引で、「大阪方式」や「保証金持ち回り」として、現金の受け渡し額を売買金額と表示するのは大阪(関西)だけの商慣習です。
このコラムでは対比的に表現するために「東京方式」、「大阪方式」という言い方をしていますが、全国的には東京方式が当たり前です。
東京方式と言っても通じないかもしれません。
なぜ大阪だけ現金の受け渡し額を売買金額として表示する「大阪方式」となったのかはわかりませんが、「大阪方式」には次のようなメリットがあります。
・仲介手数料が安くなる。
・建物消費税が安くなる。
・保有期間中に保証金の返還がなければ得をした気分になる。
・売買時の現金受け渡し額がわかりやすい。
また、次のようなデメリットがあります。
・全国的にはわかりにくい。
・問題と逆のパターン(同じ金額で、購入時が大阪方式、売却時が東京方式)だと損をする。
・保有期間中に保証金の返還があれば、とても損をした気分になる。
一番の問題は、利回りが変わってくることです。
大阪の収益物件は、利回りが高めに表示されています。
問題の例では、現金の受け渡し額ではなく、売買金額を分母として計算すると、売却時の利回りは10%ではなく、9.1%になります。
同じ利回りでも、東京方式で表示されている方がお得というわけです。
この利回りの差は、返還保証金が多くなるほど大きくなります。
住居は保証会社と契約することが一般的になってきているため、返還保証金が少ないですが、店舗や事務所が入っている収益物件は返還保証金が多いので、東京方式か大阪方式か、どちらで表示されているかは大問題です。
収益物件のマーケットは、ここ数年で急速に拡大してきました。
以前は、管理のしやすい限られたエリアで収益物件に投資するのが一般的でしたが、今では利回りの良い収益物件を求めて、投資対象エリアは海外にまで広がっています。
海外はもちろん、国内でも地域や業種によって商慣習や風土が異なります。
ネット広告などで目にする収益物件の利回りや売買金額の表示に統一されたルールはありません。
このように整備が追い付いていない収益物件のマーケットでは、購入時には注意が必要ですが、売却時にはうまく活用することも出来ます。
もちろん、ウソやダマすのはいけません。
私が考える出口戦略は、誰に、いつ、どうやって売るか、がポイントです。
Aさんは、偶然に「大阪方式」で売却して譲渡益が出ましたが、「東京方式」で買って「大阪方式」で売る方法も収益物件のマーケットを利用した出口戦略の一つです。
収益物件を「大阪方式」で取引される場合は、返還保証金の額を売買金額に足して利回り計算すると覚えておいてください。